コン王の妻エスネが死ぬと、コンは深く悲しんでついには国の統治が揺らぐほどであった。
コンは海辺に出かけて妻を悼んで嘆いていたが、そこにベクウァというトゥアハ・デ・ダナーンから罪を負って追放された女が舟にのって流れ着いた。ベクウァはアルトを密かに慕っていたが、心変わりして妻を失ったコンに言い寄った。
隠し事をしていなければ断る理由も見当たらないとコンはベクウァを妻に迎えたが、一つ彼女の願いを叶えねばならなかった。それはアルトを王都タラに一年間は来させてはならないというものだった。しかしコンは怒ったが約束を違えるわけにもいかず、彼女の言う通りにしたのだった。
コンとベクウァが都に帰ってくると、アルトはコンに「タラを出て行き一年間は近づくな」と命令されてその夜に旅立った。だがアイルランド全土は牧畜や農耕の不振にあえぎ危機に陥った。
ドルイドたちが集められてどうしてこのようなことになったのか探ったところ、ベクウァの堕落と不正が原因であるとされ、罪なき夫婦の一人の息子を殺してその血をタラの土壌とかき混ぜることで解決すると判明した。
コンはアルトを呼び戻して自分が不在の間の統治を任せると家臣たちにいいつけたうえで、罪なき子を自らの手で探そうと旅に出た。そしてコンは岸辺までやってくるとベクウァが乗ってきた小舟をみつけたのでそれに乗った。
コンは一か月と二週間、あてのない船旅を島から島へと続けた。そうしてコンは摩訶不思議な島にたどり着いた。そこでは美しい林檎の木々が生え、ワインが湧く泉が噴出していた。島の館は見えない手が松明を灯して案内し、その中は水晶や貴金属の調度品に彩られていた。
コンは不思議な館で一晩もてなしを受けると、その館の主の一家に生贄として子供が欲しいと来訪の目的を告げた。夫婦は嘆いて断ろうとしたが、セグダという子は自らの意志で同行を申出た。そして家族はセグダを連れていくなら、と条件をつけた。
「もし連れていくのなら、生きて帰れるようにこの子に、アイルランドの諸王とアルトとフィン・マックールと技芸の民(知識人階層)の保護を与えてください」
「可能であれば全て叶えるようにいたそう」
コンはセグダを連れて船に乗ると、三日三晩でアイルランドに帰還した。そしてタラでは人々がコンを待ち受けていた。ドルイドたちは少年を殺すように言ったが、まずはセグダはアイルランドの諸王やアルト、フィン・マックールと技芸の民の保護下に置かれた。
しかし実際にその責任を受け入れたのはコンとアルトとフィン・マックールであり、彼らはセグダの境遇に怒りを覚えていた。 会議が終わるとセグダは叫んだ。
「みなさん、会議でぼくを殺すことで一致したのだからもうそっとしておいてください。ぼくを自分の言葉通りに死なせてください」
ちょうどその時、牛とその後ろで嘆く女性がやってきてフィン・マックールと百戦王コンの間に座った。彼女はセグダを救うためにやってきたのだった。
「ドルイドたちはいらっしゃいますか。牛の横腹に二つの袋がありますから見つけてください」
しかしドルイドたちにはそれがわからなかった。
「この牛は少年を救うために来ました。少年の代わりに牛を殺してその血を土壌に混ぜます。牛を裂くと中の二つの袋に二羽の鳥がいます。一羽は一本足で、もう一羽は十二本の足があります」
実際に解体されて二羽の鳥が取り出されると、人々の前で激しく羽ばたいた。
「この鳥たちは出会えば戦いだしますので、ご覧になればどちらが強いかお分かりになるでしょう」
一本足の鳥が十二足の鳥に打ち勝つのを見て女は言った。
「一本足の鳥は少年で十二本足の鳥はあなたがたです。 少年が正しいのです」
女はドルイドたちを見て告げた。
「彼らは死んだほうがいい。吊るしておきましょう」
このようにして女はセグダを救ったのだった。女はコンにベクウァを追放するように諫言した。
「よい諫言だ、私が彼女から離れることができればよいのだが。だがそのようにできないのだ。忠告はないだろうか」
「彼女が一緒にいる限り、アイルランドの収穫の三分の一は得られないでしょう」
彼女は財宝を贈与されたがそれを固辞して彼女の息子セグダを連れて去っていった。
それからベクウァはたまたま草原に出てきた。そこでアルトがチェスを遊んでいたのを彼女は見かけた。
(チェスではなく正確にはそれに類似したゲームをしていた)
「あれはアルトですか。彼が私と賭けチェスをしないのなら彼にゲッシュをかけましょう」
(ゲッシュとは行動を制約するもので、破った場合には名誉が失われて場合によっては死ぬほど重大なものだった)
チェスボードが彼らの前に運ばれて、まずはアルトが一勝した。
「それではあなたに制約をかけましょう、お嬢さん。アイルランドで食事をとるのならクー・ロイ・マクダーリがかつて世界を支配した時に持っていた戦士の杖を持ってきてください」
彼女はアイルランド中の妖精の塚を訪ねたが杖の消息はわからなかった。最後にエオガバルの塚を訪ねると、エオガバルの娘のアーニャが出迎えた。
アーニャの助言に従ってミーシュ山の頂上のクー・ロイの砦で杖を見つけたベクウァはタラに戻ってそれをアルトの膝に置いた。
それからもう一度チェスを始めたのだが、妖精の塚の住人たちが駒を盗み、ベクウァが勝った。
「モルガンの娘デルブハイウを連れてくるまでアイルランドで食事をしてはなりません」
「彼女はどこにいるのですか」
「海の孤島に、それだけがあなたの知るべきことです」
アルトはタラを出て海辺にいくと、そこに小舟を見つけた。アルトは船出をして島から島へと不思議な旅をした。
そうしてアルトは花咲き鳥囀る美しい島にたどりついた。 島の屋敷に行くとクレデという美女がアルトを暖かく出迎えたのだった。アルトは一か月と二週間その島に逗留したが、やがて使命のために旅立たねばならなかった。
「時間はかかりますがお探しの娘は見つかるでしょう。道のりは険しく、あなたと彼女を陸と海が隔てていますが、たどり着いてしまえば通り過ぎてしまうこともありません。人々の足に踏まれる森の葉はまるで槍の切っ先であるかのような木が横倒しになっており、その木の近くには入江があって愚かな獣たちがたむろしています。山の前に広がる鬱蒼とした森も、山の細道も同様で、不気味な森の中の屋敷には七人の魔女や溶けた鉛の風呂があなたを待ち受けています。さらにそこにいるモンガンの息子の黒い歯のアリルには武器が効きません。私の二人の姉妹がそこにいて毒の杯とワインの杯を持っていますが、必要な時に右手のほうを選んで飲んでください。すぐ近くには銅の柵がありますが、それはモルガンの娘デルブハイウの母親であるコンヘンに殺された者の頭が一本を除いて柵のように串刺しになって並べられているのです」
事細かに助けとなる予言を聞いたアルトは 船出して奇妙な怪獣が一面にたむろする海の波間にやってきた。怪獣たちは小舟を取り囲んだので、アルトは戦装束を身に着けて戦ってそれらを皆殺しにしたのだった。
その後、アルトは森に踏み入ったのだがそこには長い頭のコンヘンと邪悪な魔女たちがいて鉢合わせになった。アルトにとって不利な遭遇であり魔女に突き刺され切り刻まれたのだが、それでもアルトは戦いに勝った。
アルトは毒のカエルでいっぱいの谷間を越え凍てついた山を越えた。そして凍てついた河に差し掛かるとそこには一本の橋がかかっており、先には屋敷があった。そこには石柱で歯を磨いている巨人の戦士がいた。アリルは巨人クルナン・クリアブサラハに勝って殺すと、黒い歯のアリルがいる場所に行くのだった。
アリルとはこのような人物だった。つまり、武器では傷つけられず、炎で焼くこともできず、水にも溺れない獰猛な勇者だった。アルトはアリルに素手で掴みかかり、激しく格闘した。アリルがアルトを罵倒し始めると、互いに罵詈雑言を投げかけたが、とうとうアルトがアリルに勝利して首根っこを引っこ抜いた。
それからアルトは屋敷を打ち壊すとアリルの妻を捕まえてモルガンの砦と不思議の国への道を白状するまで痛めつけるぞと脅迫した。
実は黒幕は長い頭のコンヘンだった。彼女はコンヘンの王コンフルスの娘であり百人力の強さを誇っていた。ドルイドたちは彼女の娘が求婚される時に彼女が死ぬだろうと予言していた。彼女が鉛の風呂と魔女、そしてモルガンの屋敷の門番のクルナン・クリアブサラハに指図していたのだった。また怪物が巣食う海に毒のカエルがいる谷やライオンの山は彼女が作り上げていたのだった。予言通りにやってくるアルトの道中にアリルを配置したのも彼女だった。
こうしてアルトはモルガンの屋敷にたどり着いた。柵がめぐらされ美しい宮殿がそこにあった。その中の塔の頂上の小部屋に美しい乙女がいて、アルトを見つけた。
「まあ今日いらっしゃったお方は本当に立派な戦士だこと。彼はアルトですわね、私たちはずっと待ち構えておりました。私は屋敷の中に行きます。
コンヘン母様に殺されて首を串刺しにされないように、どうぞこちらの小部屋においでください」
その女性はアルトを暖かく出迎え、彼の足を洗った。それからコンヘンが二人の姉妹の侍女を連れてやってきた。コンヘンはアルトに戦いを挑んだがアルトが長い激戦の末に勝利して彼女の首を取って空いていた杭に突き刺すのだった。
今度はモルガンがやってきたが、これにもアルトは勝利してついに不思議の国を征服したのだった。
アルトはデルブハイウを連れてアイルランドに帰還した。彼はタラに来ると哀れなベクウァに追放を命じたのだった。
当初あらすじを書こうと思っていたら思いがけず長くなってしまってこのようなありさまに・・・
全体的に勢いで書いたので察してください。
補足
エスネ/Ethne
百戦王コンの王妃はエスネなのは様々な文献に見れるが、この物語ではノルウェーの王女。ほかにもレンスターの上王カサル・モールの王女などという設定も見られる。
ベクウァ/Becuma
邪悪なトゥアハ・デ・ダナンの不貞の女。本来の物語にはなぜ彼女が追放されたのかが書かれているがここではバッサリとカットした。 簡単に言うと不倫です。
フィン・マックール
チョイ役にはもったいない有名な英雄。特になにをしたわけでもないが、百戦王コンの宮廷には当然彼もいた。
コンヘン/Coinchenn
その名は犬頭という意味の女性。
また、コンヘンは海にいる荒くれの集団の名前でもあり、彼らは様々な物語に登場するがいずれも海と関わりが深く、沿岸を荒らしまわる役回りが多い。